長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-4月号」 心的外傷後ストレス障害(PTSD)再考

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面接室からのたより

コラム「LOUNGE-4月号」 ―心的外傷後ストレス障害(PTSD)再考―

(2011年4月11日掲載)
 今回の東日本大震災は、長崎に住む私たちのこころにも大きな影響を与えています。テレビ報道に様々な思いを抱き、不安や不眠をきたして来院される方、これまでの病状が一過性に悪化される方など見受けられます。本コラムでも、PTSD(心的外傷後ストレス障害)についてはすでにご紹介いたしましたし、一般的な用語としても理解されてきていますが、改めてこのことのもつ意味を考えてみます。
 私は長崎で大学生活を送りましたが、ある夏の日「大水害」に見舞われました。夕方食事前でしたが、急に雨脚がひどくなり、30分もたたないうちに家の中に水が流れ込み、畳を上げるなど、手の施しようもなく家の中は水浸しとなりました。後で亡くなられた方の存在を知り、水の怖さを実感しました。しばらくして、島原の噴火による大災害が起こり、大学の教室でも心的外傷に関する研究が本格化しました。
 そして阪神大震災の時、県立病院に在職していたことから、精神科医として兵庫の病院へと派遣されました。「こころのケア」と称して夜間の救急患者の治療をしましたが、夜は孤独感が増し、どうしようもない先行き不安に襲われてパニックを起こす方が多かったようです。今でも三宮地区の傾いたビル群の醸し出す歪んだ空間が想起され、人知を超えた圧倒される力の存在を感じます。
 さておき、長崎に住む者として忘れてはならないものに、原子爆弾の投下があります。当クリニックでも、拡大地域に住む方の受けた心的外傷による精神的不調に関する診断を県や市と共同で行っております。中心部からやや離れた所からでも、ぴかっと光ったあの瞬間の記憶が何十年も経た今でも生々しく語られます。それは今でもこころへ何らかの影響を与えているのです。ちなみに、私は被爆2世ですが、父は原爆投下翌日に長崎市内を歩き、その惨状を目の当たりにしました。語られた其の時の様子は、言葉にはならない感情を呼び起こします。
 被災地の皆様には早期の復興を願うばかりで、それ以上のことを申し上げられないことをつらく感じます。あらためて、それぞれのこころの中にある思いを再確認し、自然災害であろうが人災であろうが、意識の及ばない、どうしようもない事柄のあること、しかしそれに対して圧倒されるだけでなく、どうすべきかを考え、私たち一人一人のこれからの生きることに結び付けていくことも災害から学ぶことだと考えます。

―待合室で読める本から―

「良い子のこころが壊れるとき」 (講談社) 山登 敬之 著
 “傷つきやすい、自分に自信がない、そのくせプライドは高い、自分の気持ちを上手に表せない”などの特徴をもつ、現代の子どもたちとの付き合い方を教えてくれます。当院の臨床心理士推薦の一冊。
「強迫 くもりのち晴れ ときどき雨」(長崎出版) 梨本 恵里子 著
 強迫性障害である著者が、取材を通して治るとはどういうことかについて述べています。タイプの違う8名の強迫の改善過程が描かれており、それら一人一人の生き方は、症状に苦しんでいる人や、その家族にとっては、大きな参考になります。
「“空気が読めない”という病」(ベストセラーズ) 星野 仁彦 著
 「大人の発達障害」を、性格や個性と見なされがちだった様々な特徴から探り、原因と治療法および周囲のサポートまでを広く紹介しています。著者は、決して治らない病気ではなく、“気づき、受け入れること”が大切と述べています。
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