コラム「LOUNGE-12月号」 ―「いたみ」と心的外傷後ストレス障害(PTSD)―
(2010年12月13日掲載) 「いたみ」は、肉体的な苦痛と同時になやみや悲しみをあらわす、心身両面に跨る意味を担っています。身体的「いたみ」が、外的刺激の内容に加え、個人の身体的条件によって決定されるように、こころの「いたみ」も実際にあった事件や出来事だけでなく、それを受け止める個人の側の因子が大きく関わってきます。「いたみ」は数カ月で自然に回復していく場合もありますが、その後の人生において数々の問題を引き起こしてくることもよくあります。問題もなく何年も過ごし、ある時何らかの出来事をきっかけに再発することもあります。
「いたみ」は心的外傷とも表現されますが、このような出来事に耐えた人のなかの一部にPTSD(外傷後ストレス障害)を発症します。なぜ他者より多くの影響を受けるのかは多くの要因が含まれていますが、その方がどのような人生を送ってきたのか、別の外傷体験を有していないのか、回復過程において別の生活上の要因が加わったのか、など多くのことが関与します。
その出来事を、繰り返し苦痛を伴いながら想起してしまうので、音や臭いに敏感となり、断片的記憶がイメージとなって侵入してきます。身体も反応しますので、発汗や動悸、頭痛や吐き気などの身体的症状が生じやすくなります。また、苦痛な体験を避けようとするので、家族や友人などの親しい人との間でも関わりを避けようとする傾向が強まり、ひきこもりがちとなりますので、生活も楽しめません。よって、二次的なうつ状態をきたすこともあります。そして、集中力が低下するので、数時間かけても少しの仕事しかできないようになります。
心的外傷を経験すると、潜在的な脅威を見逃すまいとして、日常生活において常に緊張しイライラします。危険がない時にも警戒しているので、リラックスできず普通の生活を送ることが困難になります。治療は、今の精神的・身体的状態を理解することから始まります。万能薬はありませんが、状態に応じたくすりの処方はこのような事態と向き合うことの支えとなります。肝心なのは、不安をコントロールする術を身につけて、常に浮かんでくる助けにならない考えや信念をより現実的なものに置き換えていくことです。たとえば、“あのようなことが起きたのは自分の責任である”と悪い自分が強く意識されたり、“すべての男性は悪い”など対人不安が誇張されたりしますが、記憶の断片が全体に誇張されて捉えられているのかもしれません。治療の経過に伴い、私たちは既に安全な場所におり、再び傷つくことについて、いつも心配する必要はないことが理解されるでしょう。
―待合室で読める本から―
不安障害の認知行動療法(1) パニック障害と広場恐怖症 (星和書店)不安障害の認知行動療法(2) 社会恐怖 (星和書店)
不安障害の認知行動療法(3) 強迫性障害とPTSD (星和書店)
この3冊はいずれも患者さんのための治療ガイドであり、ワークブックでもあります。面接で話題になった事柄について、自宅でのセルフヘルプ資料として役に立ちます。自習本としても使えるものですので、不安の悩みを持つ方に紹介しております。