長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-6月号」社会不安症について

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コラム「LOUNGE-6月号」社会不安症について

(2020年6月2日掲載)

 社会不安症(SAD:Social Anxiety Disorder)とは、ある特定の状況や人前で何かをする時に、不安や緊張・恐怖を感じ、次第にその場面を避けるようになる疾患です。人前で何かをする時に緊張したり、心配になったりすることは誰にでもあります。しかし、社会不安症の場合、苦手な状況に対して、手足の震え・発汗などの症状が出ることで「周りから変に思われていないだろうか」という不安や緊張を強く感じます。そして、このような症状がまた現れるのではないかという予期不安にさいなまれ、次第に症状が現れた状況や行為を避けるようになり、日常生活に様々な支障が出てきます。

 社会不安症は、不安や恐怖、緊張を感じる状況が1つに限定されているタイプ(例:人前でだけ緊張する)と、日常生活の様々な状況で不安や緊張を感じるタイプ(例:人前、レジ待ち、美容院など色々な場面で緊張する)の大きく2つに分けられます。前者は、日常生活は問題なく過ごしていることが多いですが、苦手な状況において精神的苦痛が大きく、苦手な場面を避けられない、対人関係に支障が出るなど、生活上の不利益が生じている場合があります。後者は発症年齢が早く、人と接触しない生活を送るようになり、自信を喪失していくと、場合によっては不登校や引きこもりにつながることもあります。

 このような人前での強い不安や特定の場面での緊張は「あがり症」「引っ込み思案」といった性格だと捉えられてきましたが、経験を積んでも症状が軽減せず、強くなるケースもあることから、治療が必要だと考えられるようになりました。

 薬物治療では、脳内のセロトニンのバランスを整える抗うつ薬(主にSSRI)が使われます。また、ベンゾジアゼピン系抗不安薬(即効性が高い)、降圧剤のβ遮断薬(震えや発汗、動悸などを抑制する)、漢方薬を使用する場合もあります。服薬後、効果が現れるまでには個人差があり、約2〜8週間で徐々に症状が緩和されます。

 苦手意識や回避行動は積み重ねてきたものなので、すぐに変えることは難しいものです。周りからどう思われているかという不安は誰もが持っていますが、過度であると苦しくなります。“不安な気持ちはあってよい” と捉え、それを持ち合わせたまま、不安・緊張との付き合い方を身に着けていくことが大切です。例えば、お薬によって症状がコントロールできるようになったら、不安・緊張の少ない状況に挑戦し「不安を感じても時間が経つと軽くなった」「緊張しても○○ができた」などの成功体験を通し、自分に無理のない範囲で、少しずつハードルを上げていくといった方法が考えられます。また、自分でできるリラックス法(自律訓練法など、心身のリラックスや神経の興奮を鎮める効果があるもの)を試す、ストレッチや散歩など適度に体を動かす、生活習慣を整えていくことも意識して行うとよいでしょう。

(心理 Y S 記)

―待合室で読める本から―

「不安症を治す」  大野 裕 著  幻冬舎新書
人前に出ると不安で息苦しい、人が恐くて学校や会社にも行くのも嫌になる、これはただの「内気」ではなく「社会不安症」という病気かもしれません。本書では、不安を主症状とする心のトラブルをやさしく解説し、薬とのつきあい方から、偏った思いこみの修正、緊張を和らげるトレーニングまで、現代人に日々押し寄せる「不安」への対処法を伝授します。
「対人関係療法でなおすうつ病」  水島 広子 著  創元社
著者は日本の対人関係療法の第一人者であるが、本書では、この療法に対して最も需要の高い『うつ病』を取り上げています。病気の正しい理解と対処法を患者および家族や友人、職場の人たちなど、対人関係的な視点を中心に解説し、具体的なアドバイスを示します。うつ病を理解する書としても、対人関係療法の入門書としても手に取りやすい一冊。
「躁うつ病とつきあう」  加藤 忠史 著  日本評論社
躁うつ病と奮闘する患者・家族と精神科医の等身大の姿を描いたロングセラー。初版が出版された1998年以降、躁うつ病概念の拡大とうつ病との鑑別が話題となりましたが、多くの症例を元に構成された良書です。
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