心理学者のアイゼンクは、パーソナリティ(≒性格)を「遺伝と環境によって決定される実際的あるいは潜在的な行動パターンの総体」と定義し、これを科学的に研究することを重視しました。具体的な方法として因子分析という統計手法を使って、精神医学的診断、質問紙法、客観的動作テストなどから得られた諸変数を分析することによって、パーソナリティの基本的次元を「外向―内向」と「神経症的傾向(情緒安定・情緒不安定)」の2つに分けて理解しようとしました。
情緒不安定という表現はよく聞く言葉ですが、そもそも「情緒が安定している」とは、心理学的にはどういう状態を指しているのでしょうか。情緒不安定な人と、安定した人の大きな違いは、一目瞭然です。それは、物事の白黒をはっきりつけたがるか否か、そこに大きな違いがあると言えます。情緒不安定な人は、はたから見ていると、すごく機嫌の良い時があると思えば、一転して、急にイライラや怒りが爆発することがあります。そのパターンをよく観察してみると、機嫌の良い時というのは、ものごとの「見通し」や正否の決着がはっきりとついている時だというのがわかります。反対に、イライラと怒りを表現するのは、どこかに「あいまいさ」が残っている時のようです。つまり、白でも黒でもない「グレーゾーン」に身を置かれた時に情緒不安定な人たちは脆弱になります。そのため仕事での商談や恋愛にしても、決着や結論がはっきりまとまるまで、ずっとイライラし続けていたり、不安でソワソワしていたりするのです。ところが、ひとたび何かがうまくいったりひと段落ついたりすると、一転して気分が晴れわたります。急に機嫌が跳ね上がり、ハメをはずして豪遊したりするのも、情緒不安定な人に多くみられる傾向だといえます。
人間関係においても、相手の気持ちがハッキリとわからない状態には耐えられないようです。なので、周りの人(カウンセラーなどの治療者も含め)を試すような行動、大げさに泣いたり、わざと怒ったり、自殺をほのめかす等々をしてみたり、相手の考えをしつこく尋問することもしばしばあります。精神科医のベックによると、このような情緒不安定性と、うつ病や不安症といった精神病理には、少なからず関連性があることが指摘されています。これは、当の本人にとってもつらいことだと思われます。このような人たちに対しては、時に「白黒などつかない。優柔不断な人間になること」が助言として提案されます。世の中にはあいまいな結論のまま終わってしまうことも多く、そのたびにいつもいつも怒ったり傷ついていると、心が疲弊してしまいます。社会的適応やメンタルタフネスを考えた時、いま必要なのは、優柔不断さやグレーゾーンを許せる柔らかい感性ではないでしょうか。仕事や私生活において、物事を具体的・論理的に考えることは必要なスキルだと思いますが、なんとなくあいまいにしても構わないという考えを持つことでうまく乗り切れる場面もあることを知ってもらえたら、と思います。
(心理Aya.T 記)