自律訓練法は、1926年にドイツの精神科医シュルツによってその技法が開発された心理療法です。これは、ヨガの本質をうまくつかみ、リラックスの方法を体得し、心身両面での不調を自己調整する方法として体系づけられています。なので、病気の人に対する治療法としてのみではなく、万人が健康なセルフコントロールをし、メンタルヘルスを維持するためのすぐれた方法のひとつです。欧米諸国はもちろん、日本でもこの方法が心理療法として取り入れられつつあり、カウンセラーがそばについて指導することはもとより、自分1人で自宅や外出先で行う自律訓練法も一般化してきています。
米国ではかつて『TM(超越的瞑想法)』と称するヨガの行法が流行したことがあります。朝夕2回静座してマントラ(呪文)をとなえて緊張を弛緩させるという簡単な方法ですが、そういったTMに代表される数々の瞑想法、マインドフルネスといったリラックス方法について耳にする機会が増えてきました。これらの瞑想法の効果としては健康増進、能率向上、成績向上、人格の安定など、さまざまな効果があらわれることで実践された人もいるかと思いますが、科学的にはまだまだ議論の余地が残されています。対して自律訓練法は精神生理学に基づいて体系化されており、効果検証も十分に重ねられている技法です。日本各地の医療機関で広く受け入れられており、九州大学病院の心療内科では、臨床心理士がこの自律訓練法に力を入れて取り組まれています。
自律訓練法を身に着けると、次の6項目の効果があることが実証されています。1)蓄積された疲労の回復が得られる。2)イライラせず、おだやかになる。3)自己コントロールができ、衝動的行動が少なくなる。4)仕事や勉強の能率があがる。5)身体的な痛みや精神的な苦痛が緩和される。6)内省力がつき、自己向上性が増す。自律訓練法は、もともと催眠研究を母体としてつくられているので、一種の「自己催眠法」「自己暗示法」といえるかもしれません。しかし、催眠といっても自律訓練法は、本人の能動性を重視する技法なので、意識をハッキリもったまま行えるリラックス方法です。一般的にイメージされる催眠や暗示というものとは本質的に違うものだといえます。
自律訓練法では、自己暗示の「公式」と呼ばれるものが用意されており、それらの公式は筋肉弛緩への生理的な流れにそって一段階ずつ習得するように体系化されています。この暗示を体得することによって、身体の末端や内臓温度が実際に上昇し、心身両面ともに安定し、頭がはっきりしてきます。「自分の身体や意識は自分でコントロールする」ことができるようになるので、それが自信にもつながります。自律訓練法は、すぐにマスターすることは難しいと思いますが、副作用もほとんどなく、誰にもできるリラクゼーションの方法です。具体的なやり方については、書籍やインターネットなどで調べることができます。不安、焦り、イライラ、恐怖等、感情の波を落ち着かせるリラックス方法の1つとして参考にされてください。
(心理Aya.T 記)