長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-1月号」重度ストレス反応とは

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コラム「LOUNGE-1月号」重度ストレス反応とは

(2016年01月05日掲載)
私たちの誰もが、何の警告もなく精神的打撃となる出来事を経験します。これらは衝撃的で恐ろしく(自身または他人の)命を脅かすような出来事で、自分ではコントロールできません。たとえば、深刻な病気と診断される、悲惨な交通事故にあったり目撃したりする、身近な人が予想外の怪我をしたり、非業な死をとげるなど、誰にでも大きな苦悩を引き起こすような、例外的に著しく脅威を与えたり破局的な性質をもったストレス性のエピソードが発症の引き金になります。
このような出来事を経験すると、たいていの人は精神的に苦しみ、症状が長ければ6週間続きます。多くの人は助けがなくても回復しますが、およそ3人に1人は数ヶ月または数年にわたって症状が続きます。これが、外傷後ストレス症候群(PTSD)です。それほど劇的なものでなくても、精神的打撃となる出来事が長く続くと同様の影響を受けます。これには、家庭でのたび重なる身体的虐待または性的虐待や、刑務所でのひどい扱われ方、拷問などが含まれます。PTSDは、外傷となる出来事がおこってから、通常6か月以内に始まります。場合によって数週間後に始まることもあります。
症状としては、外傷となる出来事のあと、悲嘆にくれたり、気持ちが落ち込んだり、不安や罪悪感、怒りを感じることがあります。フラッシュバックや悪夢、頭の中で、外傷となった出来事を何度も何度も追体験します。常に忙しくすることで、外傷体験を考えたり、怒りを感じるのを避けようとします。また、外傷体験を思い出させるような事柄や人を避けます。常に警戒し、用心を怠らず、リラックスできず、不安で、よく眠れません。痛みや苦痛、下痢、不整脈、頭痛等の身体症状、パニックや恐怖、抑うつ症状もみられます。過度の飲酒を始めたり、薬物(鎮痛薬を含む)を服用し始めます。
なぜPTSDが起こるのでしょうか。心理的には、精神的打撃の後も起こったことをはっきり覚えていることで、何が起こったのかを理解し、おそらく、生き残ることに役立ちます。フラッシュバックが起こると、本人は何が起こったのか考えざるをえなくなります。これによって、もし同じことがまた起こったらどうするべきか決めることができます。逃避や(精神的な)麻痺によって、体験を思い出して疲れたり取り乱したりせずにすみます。「(外傷体験の)再生」の数を、なんとか対処できるレベルに抑えておけます。「警戒し続けている」ことにより、また危機的な出来事がおこった場合、素早く反応することができます。また、危機のあと、日々を過ごしていくために必要な活力を与えてくれます。身体的には、体験を鮮明に記憶していることで、アドレナリンのレベルが高く維持されます。そのため、緊張したり、いらいらし、リラックスできず、よく眠れなくなります。海馬というのは脳にある領域で、記憶の処理に関わっています。PTSDでは、アドレナリンなどのストレスに関連するホルモンが、海馬が体験の記憶の処理するのを妨げているのかもしれません。そのため、フラッシュバックや悪夢が続きます。
PTSDを乗り越えるには、いつもの日課にもどるように努めましょう。外傷体験を信頼できる人に話したり、リラックスする練習をしましょう。規則正しい食事をして、運動をし、家族や友人と過ごしましょう。外傷となった出来事が起こった場所に戻ってみましょう。運転には気をつけましょう。PTSDの症状がある間は、事故を起こしやすくなっています。医師や信頼できる人に会い、希望を持ち続けましょう。自分に厳しくしたり、期待しすぎるのは避けましょう。PTSDの症状は弱さの証ではありません。これらは、恐ろしい体験をした際には誰にでも起こりうる反応です。人に会うのを避けたり、過度の飲酒や喫煙をしたり、睡眠や食事を減らすようなことはやめましょう。
治療として、心理療法では外傷体験を思い出したり、辿ってみたり、理解しようとすることにより、その体験の記憶をしかるべき別の場所へよけて、他のことに気持ちをむけるという当たり前のことができるようになります。認知行動療法(Cognitive behavioural therapy; CBT)は外傷体験の記憶について違った考え方ができるよう助けてくれる治療法で、体験の記憶は苦痛が少ないものになり、付き合いやすくなります。外傷体験を思い出すという不快さに耐えるのを助けるため、たいていはリラクゼーションも一緒におこないます。薬物療法では、抗うつ薬は、PTSDの症状を和らげうつ状態を軽くします。抗うつ薬が役に立つ場合、約12か月は服用し、その後徐々に量を減らしながら服用を中止しましょう。苦痛のために眠れなかったり、はっきりと考えられない場合、精神を安定させる薬が必要かもしれません。他に、理学療法、マッサージ、鍼灸、リフレクソロジー、ヨガ、瞑想、太極拳などがあります。これらは、苦痛をコントロールしたり、常に「警戒している」という感情を和らげます。
(「日本語版こころの健康ガイド」より抜粋)

―待合室で読める本から―

「不安症を治す」(幻冬舎新書) 大野 裕 著
人前に出ると不安で息苦しい、人が恐くて学校や会社にも行くのも嫌なになる、これはただの「内気」ではなく「社会不安症」という病気かもしれません。本書では、不安を主症状とする心のトラブルをやさしく解説し、薬とのつきあい方から、偏った思いこみの修正、緊張を和らげるトレーニングまで、現代人に日々押し寄せる「不安」への対処法を伝授します。
「対人関係療法でなおすうつ病」(創元社) 水島 広子 著
著者は日本の対人関係療法の第一人者であるが、本書では、この療法に対して最も需要の高い『うつ病』を取り上げています。病気の正しい理解と対処法を患者および家族や友人、職場の人たちなど、対人関係的な視点を中心に解説し、具体的なアドバイスを示します。うつ病を理解する書としても、対人関係療法の入門書としても手に取りやすい一冊。
「躁うつ病とつきあう」(日本評論社) 加藤 忠史 著
躁うつ病と奮闘する患者・家族と精神科医の等身大の姿を描いたロングセラー。初版が出版された1998年以降、躁うつ病概念の拡大とうつ病との鑑別が話題となりましたが、多くの症例を元に構成された良書です。
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