コラム「LOUNGE-12月号」 ―「非定形うつ病」とは―
(2011年12月5日掲載) 手足が鉛のように重くなるほど疲労感が強く、情緒不安定で周囲との関係の過敏さからひきこもることが多くなり、過眠と過食を伴う、いわゆる「定型うつ病」とはやや異なる症状の現れ方をする病態があります。定形うつ病では食欲がなくなりますが、逆に無茶食いをしてしまい体重が増加します。これは、糖分の抑うつ感を和らげ、脳内のセロトニンが増加する働きによると言われています。周囲の人たちから非難されていると感じやすくなり、気分の落ち込みをきたしますが、夜の考え事は深い眠りを妨げ、いくら寝ても寝たりないので過眠に陥ります。
特徴として、周囲の状況に応じて気分が浮き沈みするので、「気まぐれで、自分勝手」と誤解されることがあります。少しでも嫌なことがあると、気分がふさぎ、落ち込みますので、傍目からの共感が得られにくいのです。気分の問題には睡眠障害が付き物ですが、熟睡ができないので、昼間の眠気が強くあらわれます。仕事が終わって、ストレスが解消されないまま寝床につくと、何かを口にしていないと気が済まない感じがして、つい冷蔵庫の中のものを食し体重増加に至ります。そして、朝起きようとしても起きることができず、嘔気や頭痛がして欠勤してしまうという身体の症状が表面化し、職場などでの適応に支障を来します。簡易な心理検査などでもわかりますが、このような方は周囲の目を大変気にして、相手の顔色を窺う敏感なところがあります。非難されていると感じやすくなっていますので、職場の上司や同僚との関係に問題を抱えている方も多くみられます。また、定型うつ病とは異なり、朝だけでなく夕方からも不安や抑うつ感が強くなります。家に帰ってからも焦燥感が強く、怒りの感情が爆発するときは、家の中のものを壊したり、怒り発作と言えるようなものがでる場合があり、そのあとに、強い罪悪感に苛まれます。
非定形うつ病の背景には不安気質があり、他者の視線を気にして身動きができなくなる社交不安障害や急な動機や息苦しさに襲われ、「死んでしまうのではないか」という恐怖に苛まれるパニック障害を併発していることもあります。定型うつ病に比較して、不安障害との重なりが多く見受けられます。そのようなことから、治療における薬物の選択において、不安に作用しながら気分の改善を図ることのできるSSRIやSNRI、三環形抗うつ薬のイミプラミン等が使われます。これに加え、長時間作用型の抗不安薬なども併用します。また職場や学校での人間関係を見直し、そこでの感じ方や考え方について話題にするカウンセリングも大変役に立ちます。主観的なものの見方に第三者的な視点を取り入れることで、少し距離を置いて周囲を見渡せるようになると心に余裕が出てきます。生活習慣が昼夜逆転の傾向にあったり、考えないでもよいことを考えてしまうという非生産的な思考が優先の生活になっていますので、身体を動かしたり、食事習慣を整えたりすることで症状の改善が見込めます。
(参考図書 「非定形うつ病」 主婦の友社)
―待合室で読める本から―
「非定形うつ病」(主婦の友社) 貝谷 久宣 著
職場不適応の人に多くみられる非定形うつ病について、図解入りのわかりやすい解説があり、不安障害との関連や治療、改善するための日常生活の工夫などについて丁寧に説明がなされています。
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「気持ちが伝わる話し方」(主婦の友社) 森田 汐生 著
思っていることを相手に伝えることは大変難しいと思っている方には、新しい視点からの発見ができる内容です。自分中心にも相手中心にもならない対人関係の持ち方について教えてくれます。
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「始めよう。瞑想 15分でできるココロとアタマのストレッチ」(光文社) 宝彩 有菜 著
呼吸が浅くなったり、考えないでもよい考えで頭が一杯になってしまうことは、不安抑うつ状態の方によく見受けられることです。この本は、瞑想という手段を通して体調を整え、クヨクヨやイライラなどの心の状態を改善する手法を解説しています。
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