コラム「LOUNGE-3月号」 ―クスリにおける依存性の是非―
(2011年3月7日掲載) かつて精神療法を学び始めた時、クスリの効き目は、患者さんとの治療関係を反映しているものと教えられました。服用しているクスリの飲み心地や効果は、クスリ自体のもつ薬効に加味される要素が大きいということです。そこに、服用を始めるタイミングや状況も関係してきます。
さて、TVの報道番組では薬物への依存が取り上げられ、その毒性がクローズアップされています。多くの病院をめぐって集めた薬を大量に服用するわけですが、そこには治療者との関係性はなく、クスリ=物との関係があるのみです。一方、依存とは、ある意味“任せる”ということであり、“クスリが効かない”とは“あなた(治療者)には任せられない”ことを意味します。依存への不安は、任せたとしても、そこから離れることができるのだろうかというクスリ(治療者)からの自立の課題も含みます。
そこで思うのですが、治療者から差し出されたクスリは、まず味わってみることです。“良く効く”ということは治療者への理想化がなされているかもしれませんし、“かえって悪化した”は治療者へのネガティブな感情のあらわれかもしれません。どちらにしても、その効能について面接で繰り返し話題にすることが肝要です。味わって、消化(昇華)することで、初めて栄養として身につくのです。うまくないときは吐きだすことも大切です。
適度に依存したのち自立していく母親との分離の過程のごとく、もうこのクスリは十分に役に立ったと手放すことができるのも、そこでの良い治療体験があって初めて可能になるのです。面接において、クスリの服用感について話題にならないことが、「物」としてのクスリへの依存になってしまいます。クスリに関する“効能への期待”や“依存することの不安”には多くの要素が含まれていますので、積極的に取り上げることそのものが大変役に立つのです。
―待合室で読める本から―
「こんな上司が部下を追いつめる」 (文春文庫) 荒井 千曉 著働く人たちのこころのケアについての産業医からの提案。具体的事例を交え、職場で何が起きているのかを教えてくれます。「知らなかった社会不安障害(SAD)という病気」(講談社α新書) 磯部 潮 著
うつの次に罹患率が高い「あがり症」について、社会不安障害という視点から噛み砕いて解説し、治療することの意味を取り上げています。「不安症を治す」(幻冬舎新書) 大野 裕 著
「人前に出ると不安で息苦しい」という不安障害について、くすりとの付き合い方から、偏った考え方の修正の仕方まで、不安への対処法を教えてくれます。