コラム「LOUNGE-9月号」 ―“こころが見える”ということ―
(2010年9月13日掲載) 昨今脳内の情報についてはMRIやCTなどが容易に行われるようになり、視覚化した形でその状態を知ることができます。頭痛やめまい、痛みなどの症状があると、まず脳外科での画像診断を行う方が増えています。私たちの元には、そこで異常が認められなかったり、原因に基づく治療が行われても改善が十分にみられない方が紹介されます。 さて、こころの情報は客観的な医療機器を用いた手法が通用しません。こころは感じることはできても目に見える形で表現されることはないのです。そこで「視覚的なイメージ」を用いて理解していこうとする試みが、描画などの表現療法です。そこにあらわされる心的内容は、夢形成のメカニズムに類似しています。面接では一枚の紙に自由に表現してもらうこともありますし、風景など手順を追って書いてもらったり(風景構成法)、実のなる木を描いてもらったり(バウム)します。描画は描くという行為そのものが、治療者の解釈などを支えとし、その方に意識的・無意識的な気づきをもたらします。こころの葛藤が再体験され、これまで気付けなかった新しい見方を得ることにつながります。 いわば、描画のもつイメージに寄り添うことでの治療関係を通した「旅」により織りなされていく、描画との対話の中にこれまでとは異なった生き方が模索されます。治療が終結した後は、描画という紙の世界ではなく、現実の世界をキャンバスとして自らのシナリオを描いていくことになります。一時そこに立ち止まって共に過ごし、そして見送ることが治療者としての役割でありましょう。言い方を変えますと、描画は現実場面においてシナリオを見失った方自らの物語を、キャンバスの上で治療者とともに再現しともに旅をし、そして新たな現実の旅へと見送る豊かな象徴表現の場だということになります。―待合室で読める本から―
「脳から『うつ』が消える食事」(青春出版社) 溝口 徹 著「うつ」は糖質過多の食生活と「脳の栄養不足」が原因と著者がその食事法を伝授してくれます。 「ウツになりたいという病」(集英社新書) 植木 理恵 著
新型うつとも言われる本人のアイデンティティーに根差した問題や人格障害に起因する“うつもどき”について理解できます。 「森田療法のすべてがわかる本」(講談社) 北西 憲二 著
「あるがままの自分」をキーワードにうつや不安からの脱却を目指そうとする、日本伝統の森田療法について図解入りで優しく解説された良書です。