コラム「LOUNGE-8月号」 ―女性のうつ―
(2010年8月9日掲載) 女性は男性よりもうつ病になる可能性が約2倍高いと言われています。特に月経期(生理前後)・妊娠・産後・閉経などの女性ホルモンが変化する時期は、うつ病や不安障害の症状が出やすくなります。そこで、この時期に出現しやすい状態について簡単に紹介します。1.月経前不快気分障害(PMDD=Premenstrual Dysphoric Disorder)
月経前、あるいは月経中のイライラや憂鬱感といった気分の変化は多くの女性にみられ、身近な方との間に小さなトラブルが生じやすいようです。この状態は治療を要するまでもなく、月経前症候群(PMS)と言います。しかしながら、日常生活に支障をきたし、強い抑うつ気分や不安感、怒りの感情などがみられ、時に自殺念慮がみられる場合があります。月経開始から数日後には消失し、少なくとも排卵期までは、理性的で平穏、活発な行動がみられます。これが月経前不快気分障害(PMDD)で、私のクリニックでは20代後半から30代の患者さんが多数を占めています。PMSの原因ははっきりとはわかっていませんが、ホルモンの影響が考えられます。排卵後に、プロゲステロンやエストロゲンという女性ホルモンが急激に増えた後に減ります。この変動のために自律神経のバランスが崩れ、PMSがおこると考えられます。PMSを軽減させるためには、偏りのない食事をとる、軽い運動を定期的に行う、カフェイン、アルコール、砂糖の量をひかえる、そして十分な睡眠をとることが必要です。このようなセルフコントロールによっても、あまり効果がない場合は、漢方治療も有効です。
PMDDでは、PMSと同じようなメカニズムも働いているとは思われますが、PMSとは違ってセロトニンにという神経伝達物質の機能性の変調が背景にあると考えられます。このような観点からは、むしろうつ病に似た疾患といえるかもしれません。SSRIなどの抗うつ薬が有効です。
2.マタニティブルー・産後うつ病
妊娠中や出産前・産後はホルモンが大きく変化し、気分が落ち込みやすい時期です。さらに環境の変化や育児ストレスも重なり、うつ病になることが珍しくありません。過食や拒食を伴うことも多いようです。母乳栄養の場合、薬物治療が困難な場合がありますので、漢方薬を併用しながら環境調整と精神療法を行います。ミルク栄養や離乳期にある場合、抗うつ剤を使用した薬物療法が早期の解決につながります。3.更年期障害
閉経期前後になると卵巣機能が低下し、卵巣から分泌される女性ホルモンの一つである卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が減少することにより起こります。自律神経失調症様の症状として、脈が速くなる、動悸がする、血圧が激しく上下する、微熱、ほてり、多汗、頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、不眠、疲労感、口の渇き、のどのつかえ、息切れ、下痢、便秘、腰痛、しびれ、関節痛、筋肉痛などが出現します。精神症状 として、情緒不安定、不安感やイライラ、抑うつ気分などが現れることも多いようです。また、うつ病や不安障害、不眠症などの病気が隠れていることもあります。ホルモン療法に加え、漢方薬やドグマチールなどの精神安定剤を使用します。 以上みてきましたように、女性の場合はライフサイクルを考慮した対処法を考えていくことが肝要です。生活環境や家族関係を見直し心身のバランスを整えること、そこに心理療法とお薬による身体内部からの改善が加わり、本来の自分を取り戻していくことにつながると思われます。―待合室で読める本から―
「家族がうつになったとき真っ先に読む本」(エクスナレッジ) 森津純子 神山アキコ 著うつを経験した漫画家志望の男性が主人公で、うつの治療法、症状や引きこもりへの対処、職場復帰に向けての心づもりなどが、神山氏のマンガで描かれています。家族がサポートしていく上でのヒントが得られます。 「いろいろなうつを克服する方法」(エクスナレッジ) 木川田ともみ 著
多様なうつ体験者にうつ克服の過程を細かく取材し、自分に見合った「うつ克服」のヒントが得られます。マンガで大変わかりやすいです。 「ママでいるのがつらくなったら読むマンガ」(主婦の友社) 山崎 洋実 著 つちやま まみ イラスト
子育てを通した女性の悩みについて、子どもとの付き合いや、お母さんたちとのコミュニケーションのヒントがわかり気持ちが楽になる本です。