長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-7月号」 心理臨床について思うこと

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コラム「LOUNGE-7月号」 ―心理臨床について思うこと―

(2010年7月8日掲載)  現在、臨床心理士は財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定する心理専門職の証を受け、学校や病院・診療所で臨床や研究に従事しており、昭和63(1988)年12月に第1号となる臨床心理士が誕生して以来、今日までの22年間に21,407名が世に出ています。私はこの昭和63年に精神科医として臨床を開始しました。当時、臨床心理士は数が少ないだけでなく心理検査が主体で心理療法を行える人は少なかったですし、病院では看護部門に配属されることもあり、診療所に勤務する方はまれでした。ですから私たちの世代の精神科医は研修医時代から、ロールシャッハテストに代表される人格検査とWISCなどの知能検査は当然のごとく習得し、遊戯療法や箱庭療法も関心を持って学びました。一人で二役荷っていたわけですが、現在は役割が分担されていますので、たとえば発達障害や不登校の方たちは母親と子どもの同席面接の後、精神科医による母親面接を行っている間に心理士による子どもの心理検査が同時進行に行われ、総合的見立てのもとに以後の治療(おもに子どもの治療は心理士が担当し、必要に応じて精神科医が薬物治療や母親の面接を担当)が計画されるという具合に診療が進みます。  最近では認知療法がうつ病治療に取り入れられ、個人・集団のレベルで行われていますし、診療所や病院において臨床心理士の活躍する領域が拡大した感があります。また、厳密な訓練を要する精神分析も多くの心理士が臨床に取り入れているようです。精神分析はこころの動きを捉えることにおいてはすぐれた理論であり治療法なので、面接であえて「無意識」という言葉を使うことは少ないのですが、意識(頭)で考えているようには動かない現実について、様々な無意識的要因が作用して私たちを動かしているのだということに気づかせてくれます。現実は理不尽でもあり、自分も他者も思うようには動いてくれないのです。いわば見えない力に翻弄されている時は、大海原を漂流しているようなものなのですが、潮の流れ(無意識の力動)が掴めると、自分の居場所がわかり船をどのように操縦すべきか理解できます。たとえますと、船の舵取り術というものが面接室で話し合われているようなものです。そうすると、仕事と一体化して自分を見失っている状態から仕事と適切な距離を取り自ら主体的に仕事に関わること、配偶者の異性への関心に巻き込まれている状況から勇気を振り絞って踏み出してみること、子どもの行動に手を焼いている自分が如何にその行動に手を貸しているのかその意味がわかることなど様々な変化がみられるようになります。臨床心理士はこのような一連の過程に密に関わってくれる、“なくてはならない”存在であります。

―待合室で読める本から―

「うつは薬では治らない」(文春新書) 上野 玲 著
 自らうつ病を経験したジャーナリストが新型うつと従来型うつの違い、夢の抗うつ薬の落とし穴などに触れ、うつと上手に付き合う方法を伝授してくれます。
「芸術療法入門」(白水社) ジャン=ピエール・クライン 著
 芸術作品は夢と同じように作者の無意識の問題を明らかにするものとされます。臨床で用いる描画やコラージュなど子どもの精神療法には欠かせない領域についての理解も深めてくれます。
「夢分析」(岩波新書) 新宮 一成著
 “夢を見たことがない”という人はいないと思いますが、夢に登場してくるさまざまな内容が何を象徴するのか、実例をもとに解説されています。
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