コラム「LOUNGE-4月号」 ―薬物療法再考―
(2010年4月5日掲載) 現在、心療内科・精神科領域の治療の実際においては薬物治療偏重の傾向は否めません。うつ病にあっては薬物治療と休養、不安障害にあっては薬物依存性形成に配慮することなく抗不安剤の長期連用がみられます。一方精神療法は精神分析が主流であるものの、その時間と料金の負担、効果の判定、治療者の訓練に時間がかかるなどの問題を有します。今回の4月改正保険診療において認知行動療法が算定可能となったのは一歩前進と言えます。 さて薬物療法と精神療法の関連について西園は以下のように述べています。「薬物治療とごく簡単な支持的接近で改善してしまうのは、人格上の病理性あるいは現実的な葛藤がそれほど深刻でない人に限られる。今日の医療の現場はいろいろの面で組織化され、また医療保険などの第三者機関の介入による制約などもあって必ずしもヒューマンでない。患者と家族は、“病む“ということで体験している精神的危機の中にいる。それは、(1)生活を失う不安、(2)家族や友人との関係についての不安、(3)経済的不安、(4)病むことへの負い目である。ゆえに、薬物治療で治療する場合も精神療法的視点は不可欠である」。 このように、保険医療の制約の中で如何に精神療法を導入するかは日常臨床における課題であります。もちろん一般診療に予約料を組み込み、時間と料金、精神療法における技術料を勘案した治療を提供することも可能です。しかし、わが国の外来診療では一人当たり10分前後の時間をかけるのが一般的です。そうしますと、短い時間の中で精神療法の技法を如何にうまく活用するかを考えなくてはなりません。そのためには症状に基づく診断だけでなく、生活者としての全人的理解が必要になるため、育ってきた家族的背景や性格的要因を含めたその方固有の考え方、今の職場や家庭の構成や状況などから総合的に判断することが肝要です。 そのような視点から改めて薬物治療を見直すと、薬物への期待感や抵抗感は、その方の病気理解や治療に対するモチベーション、ひいては治療者との関係を反映しています。薬物によって生じる心理的、精神的な変化を把握することにより、薬物をどのように使用すれば、最も有効に作用するかを理解することが可能になってきます。―待合室で読める本から―
「“普通がいい”という病」(講談社現代新書) 泉谷 閑示 編人間の仕組みを、頭・心・身体という3つのパーツに分けて単純化したにも関わらず、うつ病や不安障害というメンタルに生じる複雑な問題を深く考えていけるようにした画期的な内容であり、一読の価値があります。 「職場のうつ―社会復帰プログラム」(主婦の友社) 渡部 芳徳 著
職場のうつになりやすいタイプを、燃え尽き型、陥没型、喪失型、逃亡型の4パターンに分けその正体について自らのデイケアでの経験をもとに解説しています。 「“大人のアスペルガー症候群”との接し方」(講談社) 加藤 進昌 著
“何となく自分は他の人と違う”と受診された大人の方に、アスペルガー症候群が含まれています。その方の居場所と治療について図式を交えてわかりやすく書かれた、希望をもたらしてくれる良書です。