コラム「LOUNGE-10月号」 ―高齢者のうつ病について―
(2009年10月05日掲載) 物忘れが強くなり認知症を疑われた女性の方が紹介されてきました。確かに物忘れはあるのですがひどくご自分で気にされるところがあり、さほど生活に支障はありませんでした。そこで詳しくお話を伺いますと、ソーシャルクラブでは人一倍活動的で、実年齢より若い年齢層のクラスに入っておられました。ところがある日、頑張って身体を動かしている最中に思わぬ怪我をしてしまい、そのことをきっかけに体力はもとより自分にも自信をなくされていました。物忘れのもとになっているのはむしろ気分の問題で、いわゆるうつによる認知症状と見立てられました。また、最近元気がなく食欲もないと来院された男性ですが、長年親しくしていた方をしばらく前に亡くされていました。失った悲しみが癒える間もなく、まるで自分のことのように感じ、自らも病気にかかって健康を失うのではないかという不安に駆られ、日常生活の楽しみも感じられずに過ごしておられました。ご本人は物覚えが急に悪くなったので、ボケが始まったのではないかと心配していました。
いずれも、喪失体験をきっかけにうつ状態に陥っていました。喪失体験とは自分が大切にしてきた対象を失う体験のことです。配偶者との死別、別居、離婚のほか、家族、親友との別れ、失恋など人間関係の喪失であることが多いのですが、対象は人間だけではありません。病気やけがをすることは健康な自分を失うという意味で喪失体験に入ります。それまでの愛着が深ければ深いほど、失うことによる心理的負担は大きいものになります。 喪失体験からくる悲哀感は誰しも経験する正常なプロセスですが、高齢者では脳機能が低下しておりうつ病を発症することが多いのです。うつ病による仮性痴呆と認知症は見分けがつきにくい場合もあります。専門家による見立ての後、適切な治療が望まれます。
―待合室で読める本から―
「まんがで学ぶ―はじめての認知症ケア」 (小学館) 高瀬 直子 著主人公の女性が認知症を経過する中で、「自分らしく生きるとは」を考えさせてくれます。コミックなので大変読みやすくなっています。 「マンガ―ある日突然、介護をすることになった人のための本」 (扶桑社) 樫木 八重子 著
認知症高齢者の家族の立場から、主に社会資源をどのように利用すればよいのかについて理解できる良書です。 「認知症介護―こんな時どうする?」(日総研出版) 伊苅 弘之 著
認知症介護における問題行動を、自分ならどうするかについて考えながら読み進めることができ、自然とより良い関わり方が身につきます。“おすすめの対応” と“キーポイント”のコーナーは目からうろこです。