コラム「LOUNGE-9月号」 ―うつ病の回復過程について―
(2009年9月11日掲載) 心身の不調がいつ訪れたのか、その時の状況がどうであったのかはその方の見立てをする上で大切な情報です。一般に、外科では何らかの負荷が身体に加えられることで直後に発症しやすく、内科では身体的アンバランスや外からの病原などが直接発症に結びついています。一方こころの不調では、発症時の対人関係や職場環境、家族環境に誘因らしきものが見当たらないことがあります。しかし詳しくお聞きすると、症状に気づかれる数か月ないし1年程前に遡って大切な方を亡くされていたり、仕事が残業続きで緊張の連続であったりなど心身を消耗するような状況が見当たります。つまりこころの不調は、緊張が持続しているときは背後に隠れており、緊張が途切れてほっとした時に思いもよらぬ形で自分の出番を主張するのです。では、治療はどのように計画されるのでしょうか。うつ病で休職される方を例にとってみましょう。最初の1〜3週間はお薬の力を借りて何もせずに身体を休める時期です。それが過ぎると、調子が良いときはなるべく起きて生活するようにしますが、まだ疲れやすいので無理は禁物です。次の2〜3週間は少し外出して買い物や散歩を試みます。TVや新聞を見て過ごしてもよいでしょう。疲れた時は横になりますが、なるべく起きて生活するようにします。休み始めて1〜2カ月ほど経つと、復職や仕事のことを考えられるようになりますので、通勤の時間に合わせて起床・外出してみるようにするとよいでしょう。さらに3〜4ヶ月目には図書館などを利用した出社訓練を行い、会社の上司や産業医を交えて具体的な復職について話し合います。このようにして無事職場に軟着陸した場合、大切なのは通院と服薬を生活の中に織り込むことです。決して急がず1年後ぐらいを目処に仕事量を増やしていきます。
このような病状の回復過程には個人差がありますので、慎重にその方に合った治療計画を考えていくことが肝要です。当院では精神保健福祉士が生活状況をお聞きして、具体的なプランについて話し合いをもっていきます。無理のない着実な回復が望ましいと考えています。
―待合室で読める本から―
「いやな気分よさようなら」 (星和書店) デビッド・D・バーンズ 著抑うつ気分を改善し、自ら気分をコントロールする方法が自然と身につきます。フロイト「悲哀とメランコリー」の引用や薬物治療についての解説があり読み応えのある一冊です。 「うつからの脱出」 (日本評論社) 下園 壮太 著
訓練としての認知療法の難しさを理解したうえで、エネルギーが低下しているうつ状態においても実践できるような配慮が随所にうかがえます。 「こころが晴れるノート」(創元社) 大野 裕 著
ストレスがたまってうつ的になっているとき否定的な感情に支配されますが、「気持ちは考えに影響される」という方法論のもとに一人でも問題解決に取り組めるように工夫された練習帳です。