慢性疼痛
長期に持続する、原因が明確でない身体的痛みが特徴です。一般にうつ病は痛みに関し敏感になりますし、慢性疼痛は抑うつ症状をきたします。整形外科的・脳外科的疾患に伴う痛み、がん性疼痛、糖尿病性疼痛、頭頸部痛、線維筋痛症などに抗うつ薬の効能が知られています。有効容量についても、抗うつ効果を現すよりも少量で鎮痛効果が得られます。当初は、うつ症状の改善が鎮痛効果をもたらすと考えられていましたが、うつ症状のない方にも鎮痛作用を発揮します。 原因はともかく長期に身体的な痛みが持続すると、人間関係や身体機能に加え、自己の価値観や自信と誇りなどが失われます。それに伴い社会的職業や家族を失うこともあり悩みは深刻です。「この痛みさえなければ」という焦りと怒りが生じやすく、それが内向するとうつ状態を引き起こします。日常生活は制限され、これまでの社会的対人関係の場に出ることすらできず、友人に誘われても断るしかなく自宅に引きこもった生活になると、身体を動かすことに慎重になり悪循環に陥るのです。
精神分析的な視点から痛みをみますと、「身体は、自我によって、母親などと同じ“対象”としてとらえられる。そして、他者(対象)との関係における危険を伝えるシグナルが不安である。つまり、身体という対象との関係における危険を伝えるシグナル(情動)が痛みである」と理解されます。このように痛みを自我と身体との関係としてとらえれば、痛みが器質因か心因かの区別は不要になります。ちなみに背景にある心理的要因としては、怒りを向けていた対象がなくなり、行き場を失った攻撃性が自己身体に向かうため罪悪感を伴い身体症状としての痛みとして表出されるというカラクリがあります。
治療としては、急性期に役立った鎮痛剤や抗不安剤は慢性になっても同じ治療を続けていますと薬物に対する耐性が高まり、薬物への依存が生じます。一旦薬物依存になると減らすのはやっかいです。こうした悪循環を断ち切るためには、抗うつ剤の使用が勧められます。もちろん医師との信頼できる関係の元に使われて初めて効果を発揮します。安全で効果も証明された治療薬ですので、副作用に注意しながら服用し、痛みの価値(意味)についても面接で話題にすることが大切です。