社交不安障害
一般に、社会恐怖は欧米でも見られ、おおよそ1.5~4.5%の割合に出現し、男性より女性に多いようです。通常10代に始まり、自然治癒せずに慢性化する傾向にあります。ほとんどの方は、適切な治療に至るまでに何年もかかっています。不安障害になりやすさは、近親者が社会恐怖であるとリスクが高くなることから、遺伝的脆弱性も関与しています。性格的には「人からどう思われているか」と、他者からの評価を気にする感受性の高さが共通しています。私たちは、普段と違った状況にさらされると、本能的に「恐怖」や「不安」を感じたり、動悸、発汗、振えといった身体の変化が生じたりします。状況に合わせた適度な恐怖や不安を感じることはとても健康的で自然なことです。しかし、それが状況に対して不釣り合いに大きくなりすぎたり、合理的でない恐怖や不安のために対人的状況を回避することが生じると、日常生活や社会生活に支障が生じてきます。このような症状は、昔から「対人恐怖」や「赤面恐怖」と表現されてきました。人が見ていると手が震えて字が書けない「書けい」という症状もみられます。
社会不安障害の治療では、薬物療法と心理療法を併用していくことが最も効果的です。薬物療法では、脳の内にある扁桃体の興奮を緩和させることが、恐怖や不安の発現を抑える手立てとなると考えられており、これに一役買うのが神経伝達物質であるセニトロンやGABAと呼ばれるものです。そこで、社交不安症の薬物療法では、このセニトロンやGABAに働きかける薬が用いられます。具体的には、SSRIおよび不安に対して直接的に働きかける抗不安薬、身体の震えにβブロッカーを用います。
また、心理療法ではカウンセラーとの会話の中で、ご自身の考えや行動に注目して、一緒に考えていきます。認知行動療法は、社交不安障害の心理療法として効果があるとされている技法です。自分が恥をかくのではないかと強い不安を感じたり、恐怖を感じる状況と自分の認知がどのように関連しているのかを解きほぐし、どのように振る舞えば良いのかという対処方法を身につけていくことを目指します。そして、緊張していたり不安な状態の時には、呼吸が速くなったり、リズムが乱れたりしやすくなりますので、逆に呼吸を意図的に変化させたりコントロールすることで感情をコントロールできるリラクゼーションが効果的です。リラクゼーションには「自分でリラックス状態を作り出すことができる」という自己コントロール感を習得する側面もあり、不安や緊張を和らげるのに非常に役に立つ手法です。社交不安障害の症状を、「気合が足りていない」「怠けている」と捉えることは間違いです。症状は、薬物療法や心理療法によって軽くしていくことが出来るものです。