長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-8月号」目的本位・不安常住(森田正馬)から学ぶ

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コラム「LOUNGE-8月号」目的本位・不安常住(森田正馬)から学ぶ

(2013年08月06日掲載)
 最近、帚木蓬生の「生きる力」を読みましたが、その中で興味深い二つの言葉に関心をひかれました。一つは「目的本位」です。私たちは朝起きた時の気分で一日の流れが決まります。気持ちが鬱々して頭が重いので会社を休んだり、朝礼でのあいさつが苦手で遅刻していこうとしたり、気分をもとに行動してしまいがちです。このように、ある行為をしていて嫌な感情が出たら、もうその行為はやめる、嫌な相手は避けるという行動を「気分本位」と呼ぶそうです。気分本位は後片付けをそのままにしておくなど怠惰につながります。パニック障害ですと「あの発作がまた起きるのではないか」と外出すら億劫になり、うつ状態が長引くと会社や学校に行かない日々が習慣化します。
 「目的本位」とは気分に左右されず、とにかく出勤してやるべき朝礼を済ませ、さしあたっての仕事に手を出すことです。そうすることで気分は和らぎ、仕事が捗ることでの自信にもなります。ちなみに強い不安は行動すら起こせないので、薬で不安を緩和しますが、その状態に甘んじているとさらなる改善につながりません。うつ状態も薬である程度の改善は見込めますが、実際に職場で働き続けることで気分も安定してきます。気分が良くなってきたので外出できたり働けるようになるのではなく、とりあえずの行動を実践することの中に気分を安定させる秘訣があります。認知行動療法的治療ともつながるようです。
 二つ目は「不安常住」です。よく面接の中で取り上げられる話題で、苦手な上司と関わることへの不安、責任を持たされたことで成し遂げることができない不安、子供の母親たちとのお付き合いをうまくできるかだろうかという不安などがありますが、これらは生活していく上では避けられない、生きていく上では経験すべき副産物です。不安は生きていく上ではそこに住んでいるようなもので、一つの不安が解決したように見えても、新たな不安が起こります。不安に左右された生活をしていると、いつまでもなくならない不安とのイタチゴッコになりかねません。叩いても、叩いても頭をもたげてきます。結果、エネルギーを使い果たしてしまいます。
 「常住」とは仏教の言葉で、生滅変化することなく、過去・現在・未来にわたって存在することです。日常生活を送っていく上で不安は避けて通れないものであり、その不安をなくそうと、「はからう」ことがさらに不安を高めて悪循環となるのです。不安に苦しむ人にしてみれば、不安がなければどんなにいいだろうと思うでしょうが、不安は人間にとって警報装置・安全回路でもあり必要不可欠なものでもあります。不安があるからこそ、危険を避けたり、失敗しないように準備したり、不測の事態に備えて保険をかけたりして、最悪の状況を防ぐこともできるからです。薬で不安を軽くしながらも、不安をなくそうという努力から一旦は解放されて、不安を抱えながら行動していく方策を見つけることが肝要なのです。

―待合室で読める本から―

「生きる力 森田正馬の15の提言」(朝日新聞出版)  帚木蓬生著
森田療法の根底には、人生を無理なく生きる「あるがまま」の肯定があります。著者が臨床三十五年のなかで、患者さんに応用し、一般の人々にもそして自らも指針としてきた療法とその創始者の生涯を、小説家と精神科医の二つの奥深い視点からとらえた画期的な書物です。
「こころと脳の対話」(新潮文庫)  河合隼雄・茂木健一郎著
人間の不思議を、「心」と「脳」の両面でとらえる、魂の専門家と脳科学の申し子が心を開いて語り合った3日間をまとめたもの。京都の河合オフィスで茂木氏は自ら箱庭を作り、臨床心理学者はその意味を読むという設定で、「河合隼雄」という存在の面白さが縦横に展開する貴重な対話集です。
「心理療法 個人授業」(新潮文庫)  河合隼雄・南伸坊著
ユニークな文筆家でもあるイラストレーター南伸坊が、第一線の学者に入門する「個人授業」シリーズ。臨床心理学者の河合隼雄が先生となって、心の不思議について講義しています。
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