長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-9月号」「うつ」の治り方

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コラム「LOUNGE-9月号」 「うつ」の治り方

(2013年09月05日掲載)
 「うつは本当には治らない」「うつは再発しやすいものだ」といった認識が信じられているように見受けられます。これらは、「治る」ということを「元の状態に戻ること」と捉えて行なわれている治療のはらむ残念な認識と精神科医の泉谷閑示氏は捉えます。仏教では、よく「自力」と「他力」ということが言われます。「自力」は自分の力を頼みにしている在り方を指し、「他力」は仏の力によって導かれることに開かれた状態を指しています。「自力」とは「頭」の知力や意志力を頼みにしている状態であり、一方の「他力」は、大自然由来の「心」(=「身体」)にゆだねた状態と見ることができます。そう考えてみると、さしずめ「うつ」とは、「自力」が尽きた状態に相当すると言えるでしょう。
 ある日突然に朝起きられなくなる、会社に行こうとして自分に号令をかけても身体が動いてくれない「うつ」の始まりによく見られるこのような状態は、「頭」が命令しても、もはや「心」(=「身体」)がストライキを起こし従ってくれなくなった状態と理解できます。通常、「うつ」に陥った時点で、患者さんはまだ「自力」を捨て去ってはいません。「頭」は、そう簡単には自己コントロールの主導権を「心」(=「身体」)側に明け渡そうとしません。それゆえ、動かない自分を嫌悪し再び鞭打って動かそうと焦ったり、休まざるを得ない自分を「価値がない」と否定的に捉えたり、罪悪感を抱いたりすることになりやすいのです。ある程度の期間休養することによって、エネルギー自体は回復するので、一見状態が改善したかに思われがちです。しかし、「自力」の要素が残った状態で急いで社会復帰を行なってしまうと、発病前の「頭」支配の体制に逆戻りしやすくなってしまい、どうしても再発のリスクを残してしまうのです。
 これが次第に、「動かない」「何もしたくはない」「起きたくない」といった「心」由来のwant to系列の表現に変わってくると、療養が良質なものになってきたことがわかります。そこからさらに、「こんな風に何もしないで過ごすのは、何て快適なのでしょう」「このままずっと休んでいられたら幸せだろうなあ」といった感じで休むことが満喫できるようになってくると、やっと「自力」が尽きて、「他力」にゆだねた状態になったと見ることができるのです。このようなプロセスを踏んで現れてきた意欲は、「心」(=「身体」)が自然に生み出したものなので、「頭」が焦燥感を偽装して作り出した「偽の意欲」とは違い、これに従って活動しても、まず問題は生じません。このような自然な意欲にもとづいてなされた社会復帰は、再発のリスクを残さない最も望ましい形であり、周囲の人から見ても明らかに安心して祝福できる様子になっているものです。
 しかしこのようにして実現する社会復帰は、「元に戻る」こととは一味違っているものです。金銭・名誉・出世などへのこだわり、他人からの評判を気にする神経症性、表面的な人間関係にとらわれたり孤独を恐れたりして群れようとする傾向、無批判な組織への忠誠心、成果主義に振り回されて効率を追い求める非人間的環境、等々への疑いや幻滅が次第に明瞭になり、そこから離脱したまったく別種の価値が見出されるようになっていくのです。そして、生きるうえで価値を置く優先順位が、ダイナミックに変化することになります。「第2の誕生」とは、このように内面的な大変革が起こることを指します。しかし、それを経たからといって、その人が仙人のような浮世離れした生き方をすることになるわけではありません。現実社会の中で日々を過ごしながらも、そこに充満している手垢のついた価値観に振り回されたり、時代の風潮に流されたりすることなく、曇りなく自分が感じ取ったことをもとにして、自分自身で丁寧に考えるような在り方に変わるということなのです。つまり「うつ」は、現代における重要な覚醒の契機の一つと見ることができるのです。
注)泉谷閑示氏が2009年に「ダイヤモンドオンライン」に掲載したものから抜粋したものです。

―待合室で読める本から―

「世界はちいさな素敵に満ちている」(自然堂出版)  西澤律子著
カナダ、フィンランド、アラスカ、日本などで出逢った、こころあたたまる瞬間、ゆたかな自然、その中でのびのびと生きるこどもや動物たちの瞬間を撮影した写真集です。
「写真」(晶文社) 谷川俊太郎著
谷川氏が小さなデジタルカメラを手に、のびのびと撮影している様子が伝わってきます。それぞれの写真には、簡易な詩が添えられており、思わず手に取ってみたくなる本です。
「日本語を味わう名詩入門1 宮沢賢治」(あすなろ書房) 萩原昌好編
初期の作品「屈折率」から晩年の「雨ニモマケズ」にいたるまで、年代を追って変化していく賢治の詩風を味わうことができます。
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