長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-7月号」些細なことが気になる方へ―強迫性障害とは

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コラム「LOUNGE-7月号」―些細なことが気になる方へ―強迫性障害とは―

(2012年7月9日掲載)
強迫性障害とは、「頭の中ではわかっているけどやめられない」病気です。自分でも不合理だと思いながら何回も繰り返すので本人にとっては大変つらいのです。たとえば、トイレに入った後何回も手を洗う、ドアのカギをかけたかどうか、ガス栓をしめたかどうか何回も確認するというものです。外出する際にも、何十回も確認しないと気がすまないので、予定通りに人に会うこともままならず、社会生活に支障をきたすことになりますので、なんらかの治療が必要となります。
強迫には、強迫観念と強迫行為があります。強迫観念とは、特定の考え(観念)が頭に思い浮かび、何回も同じ考えを繰り返すものです。ばかげているとわかっているのに、自らの意思に反し頭の中にイデオロギーやイメージが繰りかえし生じる状態です。「夜、泥棒に入られたらどうしよう」とか「明日、火事になったらどうしよう」というような不安に強く苛まれるようになります。強迫行為とは、戸締りやスイッチ、コンセントを何度も確認する、何度も同じ動作を繰り返している、仕事でミスをしないように書類を何回も見直すといった確認行動です。数時間も同じことを繰り返して次に進めなくなりますので、家族との食事も同じ時間にとれなくなったり、入浴も億劫になったりします。家族や職場の同僚も巻き込まれますので、人に迷惑をかけているのではないかと悩み、うつ的になる場合もあります。
神経心理学の研究によれば、強迫性障害の人は「カギをかけた」という自分の行動を脳の記憶の中にしまいこむことには異常ないのですが、「カギをかけた」記憶を思い出す(想起する)ことが困難になっていることがわかっています。そのために、カギをかけたかどうかという疑問が生じ、「泥棒に入られるかも知れない」という不安が強くなって、またカギを確認するということを繰り返します。また、強迫に関連する病気としては、摂食障害、アルコール依存症、ギャンブル依存症、小児のチックや抜毛症などがあります。これらは、いずれも自分で「不合理だ」あるいは「体に悪い」と思いながらも同じ行動を繰り返してしまい、セルフコントロールできない病態と考えられます。
家族がこだわりの強さに病的なものではないかと感じ、相談される場合もあります。「なぜこだわるのか」、「気にしなければすむことなのに」、「こだわるのはやめなさい」などの助言をしたくなりますが、このような助言は、「家族は自分のつらさをわかってくれない」と感じるものです。本人もこだわるのは苦痛で、こだわりを止めたいのに、どうしても不安が消えなくてこだわらずにいられないのです。まず、このような本人の苦しみを少しでも理解してあげることが大切です。「何度も繰り返したり、長い時間がかかったりして、こころやからだに負担がかかっているのではないか」、「不安や緊張も強く、神経も疲れているのではないか」などの声かけをし、受診を勧めてください。
強迫性障害の治療は、精神療法と薬物療法です。強迫性障害の精神療法で良く知られているものとしては、行動療法、認知療法、森田療法の3つがあげられます。行動療法とは、不安や強迫観念を追体験しながら、自らの意思で不安や恐怖を克服していこうという精神療法です。認知療法とは、強迫観念を「認知の歪み」と捉え、その歪みを修正する過程を通して、合理的な判断力を取り戻そうという精神療法です。森田療法とは、「あるがまま」を受け入れ、不安を抱えたまま行動することにより、不安や恐怖を克服していこうという精神療法です。一人一人の強迫観念の内容や罹病期間などが異なるため、強迫性障害の症状の現れ方や度合等と、その人との相性を基に、それに適した精神療法が用いられています。また、薬物療法としては、三環系抗うつ薬であるクロミプラミンが強迫性障害に有効であることが確認され、この病気の原因として神経伝達物質の一つであるセロトニンが考えられるようになりました。次いで、選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)が登場し、これが第一選択薬の地位を占めることになりました。その他には、不安のレベルを下げるという意味で抗不安薬が併用されます。

―待合室で読める本から―

「発達障害でつまずく人、うまくいく人」(ワニブックス新書) 備瀬哲弘著
大人では広汎性発達障害とADHDを合わせると100人中2〜3人はいると言われます。まわりの人の理解を得てうまく生きられる人とうまくいかず苦悩する人がいる中、大人になっても発達して変わっていくという視点から、本人と周囲の人が発達障害と「うまくつきあっていくコツ」を解説します。
「図解優しくわかる強迫性障害」(ナツメ社) 原井宏明他著
強迫性障害の具体例を漫画タッチで解説してあります。重症度判定や精神科医に相談するときの心得について触れ、エクスポージャー法を中心に治療と予防について解説しています。
「実体験に基づく強迫性障害の鉄則35」(文芸社) 田村浩二著
自らが強迫性障害に罹患し立ち直ってきた経験をもとに、その過程で気づいたことや症状に巻き込まれない方法について述べてあります。読みやすくわかりやすいことに加え、勇気づけられる内容になっています。
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