長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-6月号」 こころの栄養

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コラム「LOUNGE-6月号」 ―こころの栄養―

(2010年6月1日掲載)  数年前になりますが、あるご家族から「私の子どもは正常でしょうか」という質問を受けたことがありました。唐突でもあり、返答に困りましたが、その奥にある気持ちを伺うと、うつ的な状態が続いていることへの危惧が語られました。“正常”という人の精神状態を判断する言葉は一般には使われるのでしょうし、私たちの多くは自分が正常であると思っています。しかし、力動精神医学の教えるところによると、“こころ”は正常か異常かの二分法には馴染まず、健康なこころと病的なこころが合わさって一人の人間を形成しています。その両者の力関係に関心を向けることで、先ほどのご家族の質問が腑に落ちるものとなりました。  一般に“うつ”とは、仕事や対人関係での心労が重なり健康なこころが疲弊し、それまで抑えられていた病的なこころに振り回されている状態です。たとえば、女性に多くみられる過食は、食べたくもないのに食べ物を無性に欲し、一旦口に入れると止まらなくなり、そのようなことをした自分を責めて抑うつ的になります。食物でありながら栄養にならず、太ることを回避できるので、吐いてしまっても食べ物への後悔はありません。そのような行為を繰り返してしまうことへの自責感だけが残ります。過食の真っ只中の自分は病的なこころに支配されており、健康なこころの言葉を聞く耳をもちません。過食嘔吐が済んで衝動性が収まった後に、病的なこころは何事もなかったかのように影をひそめ、健康なこころは罪悪感に苛まれるのです。つまり過食嘔吐とは、受け入れがたい現実や心的葛藤を無理に呑み込もうとすることへの“症状化した行為”と言えます。  ではどうすればよいのか?それは、この二つの“こころ”の力関係におけるバランスを整え、本来何が必要な身になる栄養であるのかを理解することです。職場での受け入れ難い対人関係や仕事内容、家庭での葛藤を孕んだ親子関係や夫婦関係は、そのままでは呑み込めないし、無理にそうすると消化不良を起こしてしまいます。周りの人たちとの間で、そして自分の中で繰り返されてきた悪循環を断ち切るには、一見歯が立たないものを吟味してみることです。それには第三者の存在を前に自らの問題を映し出してみることであり、“あいだ”に置いてみることです。意外に良い調理法が分かるかもしれないし、実は本当に食えないものだとわかるかもしれません。食えないものは吐き出すか、または身になるものに変えて味わうことです。そのような理解が進むと、病的なこころは影を潜め、その仕業であった症状や行為が改善していきます。この過程において、くすりは病的なこころの衝動を抑え、本来の健康なこころのもつスムーズな思考と感情の流れを取り戻す大切な働きを担います。くすりで治すのではなく、くすりの力を借りてこころのアンバランスを調整するのです。私たちは本来、食べたいと思うものを食べて初めて身になるのではないでしょうか。

―待合室で読める本から―

「“感情の整理”が上手な人下手な人」(新講社) 和田 秀樹 著
 他人のことを好きになる、そして自分のことも好きになれる秘訣が書かれています。普段は見過ごしやすい心の動きに気づくことの大切さを教えてくれます。
「うつ病治療 常識が変わる」(宝島社) NHK取材班
 社会全体がうつ病への理解を深めようとしている今日、うつ病が私たちの社会のあり方、生き方そのものを反映しています。うつになったことで、人生がより深く過ごせるようになるヒントを与えてくれます。
「銀河鉄道の夜」(リトルモア) 宮沢 賢治 作 清川 あさみ 絵
 宮沢賢治の不朽の名作に、清川あさみ氏による紙への刺繍、そしてビーズやクリスタルを施したアート作品が楽しめる一冊です。
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