長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-1月号」 “とらわれ”から自由になること

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コラム「LOUNGE-1月号」 ―“とらわれ”から自由になること―

(2009年12月29日掲載)  私がまだ精神科医として駆け出しのころ、外来で精神療法を行っていたある女子大学生から、10枚の図版が掲載された一枚の紙を手渡されました。彼女は「この絵を見ていると見失った本当の自分を探し求めることができそうだ」と大変嬉しそうに語りました。しかし初めて見る私にとって、この絵が何を意味するのかよくわかりませんでした。
 数年がたち、多重人格をはじめとした解離性障害の治療に携わるようになり、私は一人の人の中にいる“いくつもの自己”に出会うことになりました。多くは偽りの自己と真の自己との間に揺れ動くアイデンティティーの課題をもっておられました。治療を通して、様々に表現される多くの人格が、実は内的な自己の断片であること、つまり心の現実(心的リアリティー)の存在に気づかされました。「自己とは何か」を問う多重人格の治療経過は、かつて見せられた10枚の図版、すなわち「十牛図」の過程に大変類似していたのでした。

第3図版:見牛
 十牛図の第1図版「尋牛」では、「ある日、牧人の飼っていた一頭の牛が牛小屋から逃げ出しました。牧人はその逃げた牛を探し求めて野原や峡谷を駆け巡ります。友人たちの手を借りずにただ一人で」と解説されます。これを心的問題としてとらえるなら、「なぜ私は真の自己を見失ってしまったのか」ということになるでしょう。この問いに答えるべく、さらに9枚の図版が展開されていきます。
 私たちは知らないうちに様々な「とらわれ」に操られて生きています。とらわれ自体を扱う精神療法の目的とするところは、症状の改善のみならず、いかに自由に生きることができるかです。私たちの心の中には、多重人格のように極端ではないにしても、真なる自己以外の他なるものの存在があり、それに左右されて生きているのです。十牛図は中国の北宋時代に作られたものでありますが、情報過多の現代社会に操られている私たちにとって、“偽りの自己”に気付かせてくれ、真の自由な生き方を教えてくれるようです。

第3図版:見牛(けんぎゅう) - 牛の姿をかいまみること。優れた師に出会い「悟り」が少しばかり見えた状態。牛は人の心の象徴とされます。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)

―待合室で読める本から―

「いい人に見られたい症候群」(文春新書) 根本橘夫 著
 外界から期待されている自分を“代償的自己”とし、その中に秘められた“本当の自己”とは何か、自分を成長させ満足させるにはどうしたらよいのかについて考えさせてくれます。
「脳に悪い7つの習慣」(幻冬舎新書) 林 成之 著
 “がんばろうとするほど結果にこだわってしまうのは悪い習慣で、目的を達成したいのであればプロセスにこだわることが大切”という、脳神経外科医でもある著者ならではの明快な語り口が面白いです。
「しがみつかない生き方」(幻冬舎新書) 香山リカ 著
 “〜ない”をキーワードに、こだわりのない生き方、普通の幸せを取り戻すためのヒントを与えてくれます。普通に生きるのも大変な時代なのかもしれません。
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