長崎の心療内科 もとやま心のクリニック コラム「LOUNGE-12月号」 あがり症について

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コラム「LOUNGE-12月号」 ―あがり症について―

(2009年11月30日掲載)  人前に立ち何かを話さなくてはならない場面は誰しも経験するものです。このような時、不安を感じるのはごく普通のことであり、適度な緊張はおそらく、よりうまくスピーチを行う上でプラスに働くと言われています。ところが、自己意識が強く自分に向かうと、顔が引きつってしまい、何を話しているのか分からなくなり、それが周りの人に知られ、“変な人だと思われはしないか”と脅えてしまうことがあります。そうなると、発汗や動悸、手の震えが出てきて止まらなくなります。
 このようなことは、さまざまな年代で生じてきますが、思春期に発症するタイプの方は、元来社交的で明るく活発な方であることが多いのですが、ちょっとしたスピーチの失敗などを、身近な他者(異性や先生)に指摘されたことで生じた不安緊張感を初回エピソードとして、以後そうなるのではないかという感覚が持続します。しばらくは社交場面を回避することで解決するのですが、社会人になり再燃しますと、恥の感情だけでなく、そうなってしまう自分への自己嫌悪にさいなまれ、肯定的に思えず軽いうつ状態に陥ることがあります。
 社会的状況としては、大勢の前や親しい人との間でというよりは、比較的少人数の半分見知った人たちとの間で不安が増強することが多いようです。このような集団の状況を身体が危険であると察知すると、不快感や緊張感、冷汗や震え、動悸、過呼吸が出現してきます。そうなると周囲を見渡せなくなり、自己に意識が集中してしまいます。一人になると、自己否定的な思い込みが活性化しくよくよと考えてしまうのです。
 ではどのように治療すればよいのでしょうか。人前で「見られている」という意識が強いことは、自分を守る安全行動でもあります。実際には相手を見ないで、うつむいていることが多いので、「周囲から注目されて、変な自分である」「自分が話すと相手を嫌な気分にさせてしまう」というのはかなり主観的なものなのです。このことに気づいたら、勇気を出して顔をあげ、周囲を観察してみることをお勧めします。自分をひたすら守る姿勢から、守りつつ攻撃する姿勢に変えていくのです。そうすると、自分の表情や態度、話していることが、本当に相手を不快にさせているのか、客観的に評価できます。そして、一人になったときの「やはり今日もうまくいかなかった」という自己否定的な思いに苛まれることへの自責的態度を見つめなおすことです。
 上記のような精神療法的アプローチに加え、薬物療法も有効です。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬やβブロッカーは動悸や筋緊張を和らげ、効果が出やすく、早期に不安の悪循環を断ち切ってくれます。眠気やふらつきを伴うこともありますが、比較的服用しやすいのが利点です。そして最近よくつかわれるのが、脳のセロトニンの働きを強めるSSRIという薬物です。即効性はありませんが、飲み続けることによって、くよくよと嫌なことを考えることが少なくなり、落ち込まなくなります。徐々に対人場面での不安が和らぎます。60〜70%の方に効果がありますが、残りの方は効果が十分でないか副作用で服用が継続できません。その場合でも、他のSSRIに変更したり、作用の異なる薬物を併用したりすることで改善が期待できます。

―待合室で読める本から―

「不安の病」(星和書店) 伊豫雅臣 著
 誰しもが感じる不安について、その発生の仕方と認知のメカニズム、症状から疾患の種類、そして治療までを具体的に解説した内容であり、不安への対処法に関するヒントを与えてくれます。
「社会不安障害―社交恐怖の病理を解く」(ちくま新書) 田島治 著
 対人恐怖症が人みしりや恥の病理として知られていた時代から、社会不安障害として新たに注目を浴びてきた現代の状況を踏まえ、主にSSRIなどの薬物療法の功罪について述べた良書です。
「社会不安障害・パニック障害がわかる本」(法研) 福西勇夫 著
 これまで内気で引っ込み思案の性格だからと、社交から遠ざかっていた方々に、改めて不安障害として認識することでの適切な薬物療法、精神療法による改善の可能性を、一般向けにわかりやすく解説しています。
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